2月11日の投稿でお伝えした帝京大学 前教授で保育や児童館行政の専門家である村山祐一先生の意見につづき、東京工業大学名誉教授で、児童館や公園など、こどもの遊び場設計をライフワークとされている環境建築家の仙田満先生が7月6日(土)付の朝日新聞「私の視点」欄にオピニオンを投稿しています。こどもの城が閉館するなど、こどもが生き生きと遊べる場が減り、こどもの成育環境が劣化していることを危惧し、こどもの城の運営の継続と質の充実を訴える内容です。

タイトルは「『こどもの城』閉館 生き生き遊べる場、守って
(クリックすると紙面を表示します)

以下に全文を引用します。

東京・青山にある国立総合児童センター「こどもの城」を、厚生労働省は2014年度末をめどに閉館する。全国の児童館の中心的存在だったが、子どもを取り巻く環境が大きく変化したことから閉館を決めたという。「児童館の役割は終わった」「キッザニアなど民間の施設が担えばいい」と言いたいのなら、それは違うと思う。運営の継続を求めたい。

3.11の被災地を見ても、子どもが生き生きと遊び、伸び伸びと生活できる空間の再建が重要であることがわかる。大震災に見舞われる運命にあるのが、わが国である。困難を乗り越えていくたくましさを、子どもたちには身につけてほしいと願う。

しかし、その力は多様な体験をしてこそ学べるものだ。10歳までに五感を使った体験を十分にすることが重要であると、最近の脳科学でも言われている。ただ現実には、つまずいたり、ぶつかったりして大けがをする子が増えている。3,4歳になってもベビーカーに乗せられ、自分で歩けるのに歩かない幼児もよく見かける。歩道のない通学路が全体の3割を占め、親は安心して子を学校に通わせることもできない。

一方で、子どもたちはゲームやパソコンに長時間を浪費し、小学5・6年生で外遊びの平均的な時間は1日15分程度だという報告もある。子供の成育環境は明らかに劣化しているのだ。これで子どもたちが力強く育つだろうか。

動物は誕生時から、自らの行動と視覚が一致して初めて、身体的な能力が形成されていく。それは米国の学者ヘルドとハインが半世紀前に行った、子猫をゴンドラに乗せて育てる実験からも明らかだ。自ら歩かず、視覚的な情報だけで育った子猫は障害物を避けることができずに転倒したり、衝突したりした。わが国の子どもたちも、まるでゴンドラに乗せられた子猫のような生活を強いられていないか。

国家財政が悪化するなか、野外活動施設や児童育成施設は次々に閉鎖されている。東京都もすでに児童会館を閉じた。高齢者福祉への支出とのバランスはあまりにも悪く、政治家や首長は「子どもは票にならない」と考えているかのように見える。

確かに「こどもの城」も、その敷地、規模からすれば年間80万人の利用は少なすぎる。施設面、運営面での改善は必要だろう。しかし今、公共的な空間は、むしろ増やすべきなのだ。子どもが元気に子ども時代を過ごすということは、次の世代を支える世代が力強く育つことである。子どもを大切にしない国に、未来はない。